<C‘MON C‘MON ーカモン カモンー>“Simply Better“
若者たちの声
私たちが住んでいるこの世界や育った土地のこと、親のこと、未来についてを子供たちに問いかける。
話したくなければ話さなくていいんだよと、ラジオジャーナリストのジョニーは優しい眼差しで子供たちの声をマイクに落とし込んでいく。悩みや疑問を吐き出していく彼らの姿は、屈託がなく真っ直ぐで深く心に突き刺さる。
孤独や不安を伝えつつも、大きな希望を感じるインタビュー。皆、それぞれの幸せを望み、これからの未来を偽りなく見つめている。
そんな彼らの言葉を聞き、“声”を永遠にしていく。
映画『カモン カモン』本予告(100秒)|4月22日(金)全国公開 - YouTube
ホアキン・フェニックスという叔父さん
羨ましい。あんな叔父さんが羨ましい。
久しぶりに甥っ子にと会った時のあの笑顔、入ってもいいかい?とお互い囁くように笑う。とても優しい叔父さん。
初めての子育てに思いきり振り回され、“大人はきっとこうあるべき“を模範していくが上手くいくわけはなく、ヘトヘトに疲れ果ててベッドに倒れ込む。それでも懸命に甥っ子と話し、心で対話し、優しい笑顔で温もりを届けてくれる。
今作のホアキン・フェニックスも本当に素敵だった。
彼の過去作はどの作品も素晴らしいが、まだ知らない一番優しいホアキン・フェニックスがここにいるのかもしれない。
9歳の男の子の世界
奇妙なことに興味があり、賢くて少し変わっている。食事中に菌類による木のネットワークについて一生懸命おしゃべりする。
とてつもなく可愛い。
目の前にいる伯父さんに好奇心を湧き上がらせ、突然プイッと機嫌が悪くなり困らせる。そして、親がいない子の空想遊びが大好き。だが、そのひとつをとっても、時折、ジェシーの心の奥深くにある混乱や寂しさが垣間見えてくる。
ママへの想い、パパの心配事、面倒を見てくれる伯父さん。よくわからない事だって多いし理解できないこともある。
大人の私たちはいろいろ知りすぎて、優しくありたいと利己的で大事なことは手からこぼれ落ちているのかもしれない。
聞くこと、認めること、受け入れること。一緒に成長していくこと。
映画『カモンカモン』公式より
拡大
世の中の音を丁寧に拡大して収録する。ローラースケートの音や波の音、カモメの声、木々の葉の揺れる音。それらの秘密をこっそり聞かせてもらっているように、ジェシーが伯父さんの大きな機材を首から下げ、笑って歩いていく。
インタビューマイクを通した子供たちの声は、彼らの拡大された細部へ入っていくように聞こえ、反対に彼らの素直な不安と強さに飲み込まれる感覚にもなる。その言葉はどれもとても美しい。
“Simply Better“
トラックの文字が鮮烈に目に入ってきた。
映画を見ながらずっと、この文字の意味を考えていた。不安定な家庭環境、心が混乱していること、大好きなのにあなたが側にいないこと、友達が少ないこと。どれも複雑な事のようで、心をマイクに落とし込み拡大してみれば、この人生はとてもシンプルだということが見えてくるかもしれない。
大人になると忘れていくこと。何を覚えていて、君は何を忘れるのか。
“Simply Better“
最後に・・・
この映画は感想をまとめるのが凄く難しくもあり、しかし、一生懸命に考えて思い出しながら書いている時間はとても幸せでした。二人が一緒に過ごした時間は人生のほんの一瞬かもしれないけれど、かけがえのない宝物だと思う。小さくてもひとり人間で、大人もまた不完全なひとりの人間。
素敵な映画をありがとう。
総評
★★★★☆