<アントラーズ>デル・トロ風味ファンタジー・ホラー
映画『アントラーズ』(2021)
デル・トロ監督が製作に関わっているとなれば、いつでも安定したホラー・ファンタジーが楽しめるのは言うまでもない。
今作もそれに違わずねっとりと湿度の高い映像に仕上がっている。オレゴンの森で発見された惨殺死体は下半身が食い破られており、保安官たちは獣の仕業と睨むがその肉片には人間の歯形と思われる跡が発見される。
ANTLERS | Official Trailer [HD] | Searchlight Pictures - YouTube
ルーカス
まずこの映画を語る上で特筆せねばならないのが“ルーカス”だ。
ほぼ無表情で、目力のバケモノのような主演の男の子。そしてとんでもないオーラを放ち画面越しをこれでもかと圧倒してくる。陰鬱で悲しげで利口な12歳。森で動物を捕獲し、解体し、何かを世話している。
結構ヤバめな子供をすんなりと演じているので、毎度のことながらキッズたちの精神状態を心配してしまう。弟のエイデンも相当にエグい状況に置かれており、兄弟共に痩せこけて悲しげだ。弟の皮膚はまるで呪いのようになっている。あぁ心配だ、親心が疼く。この子たちは大丈夫なんだろうか・・・。
映画.comより
メドウズ姉弟
こんな生徒がいたらどうにかなってしまうのではと思うが、米国では親が薬物中毒だったり虐待されていたりと、それは日本の比ではないのだろう。この兄弟のお父さんもまさしくクズだ。だが少なからずともまだ子供を愛していたようには思う。だが結果、あのような惨事が起きてしまう。お父さんの過去に一体何が起きたのか?なぜあんなことになってしまったのか。彼らの現実に踏み込んでいったメドウズ姉弟が目にする衝撃の事実たるや、超絶デル・トロ・ファンタジー。
先生である姉ジュリアも何やら闇を感じざるを得ない重く苦しい過去があるようだ。そしてマット・デイモン似の保安官の弟ポールは、なんとも言えない…右を向けと言われれば右へ、左を向けと言われれば左を向くような男だ。
映画.comより
絆
ルーカスはエイデンを生かすのだが、12歳の子供に弟の死を思考するなどあるはずもなく、ただ生かし食を与える。それを絆と呼ぶのか、本能と呼ぶのか。また、愛と呼ぶのか。
兄弟の絆を愛と呼ぶのなら、メドウズ姉弟はどうだろうか?弟とは比ではないトラブルを抱え、一人で耐え生きてきた姉ジュリア。心傷が深く、教え子のルーカスに自分を重ね守ろうとする。だが、全てを理解しているルーカスには家族以上に大切なものは存在しないのだろう。
グロ描写は中級
デル・トロ監督が関わっている作品を好んで見ている方であれば、アントラーズの描写などおちゃのこさいさいです。屁のかっぱです。
ただ、とても素晴しい描写であることは間違いがなく、街の雰囲気や寂れた色彩などはスっと世界に入り込んでしまう吸引力がある。クリーチャーは言うまでもなく気持ち悪く、デカくて愛嬌があり流石としか言いようがない。
ただ、グロ免疫システムが備わっていない方には若干心配な描写はあります。製作陣にデル・トロ監督いるんですから仕方のないことだ。みんなで腹を括りましょう。
人体破損、悪霊に取り憑かれた人間、串刺し攻撃などなど、これらはホラー映画には憑きものなので早いとこ免疫システムを稼働させるに越した事はないです。
最後に・・・
デルトロデルトロいってますが、監督はスコット・クーパーです。最近で言うとクリスチャン・ベイル主演の「荒野の誓い」や、ジョニー・デップ、ベネディクト・カンバーバッチ、ジョエル・エドガートンの大物俳優を起用した「ブラック・スキャンダル」があります。
とはいえ、本作はもうほぼデル・トロです。
少しネタバレ
本作の重要なポイントとなっているのが神話。どことなく日本のシシガミ様を彷彿とさせるが、根底となるのは人間の愚かさや弱さや欲望。ウェンディゴは全てを司る神ではない。現実と神話が噛み合わさることで監督が伝えたかったメッセージが視覚化され、現アメリカが抱える闇と問題点が浮き彫りになってくる。
総評
★★☆☆☆
私の好きなデル・トロ関連作品