<10番街の殺人>腰痛持ちのシリアルキラー
ジュラシック・パークシリーズがラストを迎えた2022年の夏。全ては、ジョン・ハモンド博士が恐竜パニックのはじまりだった。
キッズたちの好奇心を弄ぶおじいちゃん的要素を構え、無責任というノリを権力と財力でねじ伏せていたハモンド博士<リチャード・アッテンボロー>が、実在のシリアルキラーを演じていたというお話。
リチャード・アッテンボローの演技力
とにかくキモい。ハイウエストのズボンにサスペンダー、そしてなぜかベルトをも巻き、目が死んでいる。キモさが炸裂である。サスペンダーとベルトのダブル使いでこうもキモくなれるのか・・・(腰痛補助ベルトの可能性もあり)
実在のシリアルキラー<ジョン・クリスティー>をアッテンボローが見事に演じ、まるで出血キャンペーンかの如くキモ含有量が爆増している。囁き声と興奮した時に漏れる吐息、死んだ眼の奥に光るシリアルキラーの欲望、どれをとっても隣人にはいてほしくない男である。
コスパに優れた殺害方法
医学的な悩みを抱える女性にそっと忍び寄るクリスティー。
気管支炎に悩む女、偏頭痛に悩む女、望まない妊娠に堕胎を望む女。これらに医学的治療を施すといい忍び寄り、治療のためのガス麻酔を吸わせ、意識を失ったところで絞殺し、はあはあする。ド変態野郎だ。
器具はお手製のダンボールを使用したもので、ガスは家屋備え付けのガス管から・・・というコスパに優れた手法。ロープに至っては、使い回した相棒のような風格すらある。
だが、ガスの毒を中和させるという演出もしている。密室で二人きりなのに、強引に殺らないクリスティーの地味な下心が垣間見える。キモい。
事もあろうに、ジョン・クリスティーが仕切るアパートの3階に間借りしてしまうのがエバンス夫妻。
夫のティムは文盲で、週7ポンドしか稼ぎがなく、虚言癖があり感情的で決して良い夫とは言えない。(一部の文献を読むと軽い知的障害があったのではと記載があったが定かではない)
妻のベリルは第二子を妊娠し、ティムの気持ちそっちのけで堕胎を望み、薬を飲む。
喧嘩が絶えないが仲の良かった夫妻、すべてはクリスティーとの出会いが悪夢のはじまりだった。
これらの要素に目をつけ、べリルの体にも目をつけ、世話焼き隣人的な親切心をむき出しに近づくクリスティー。ティムの文盲を念入りに確認し、彼の自己評価を下げようと卑しめる会話をする。金銭的困窮から医師に堕胎を頼めない妻ベリルには、堕胎の知識があると嘘を仄めかす。
ジョン・クリスティーという男
知り合いでも何でもないので詳しい事はまるで解らないが、どうやらクリスティーは不能らしい。死姦でしか興奮しないのか、嫁には戦時中の毒でやられて不能だと話していたという。しかも前科がてんこ盛りで、窃盗、詐欺、暴行など盛りだくさんだ。元軍人の肩書きを利用し、戦時中は警察にもいたという。とんでもデンジャラスな男であることは間違いない。
だからと言って婦女連続殺人をする正当な理由なんてないので、やっぱりシリアルキラーのことは解らないし、解りたいとも思わない。
根底の劣等感
ティムの虚言癖は、自信がないが故のどうしようもなく幼稚で表面的な嘘。しかも、すぐキレる。誰かを陥れるための嘘なのか、否か。嘘は吐かないに越したことはない。
人間誰しも嘘をついた経験はあるだろうが、大抵は“自分を守るための嘘”であることが多い。騙してやろうとなどと陰湿な考えが浮かんだ時点で、自分の中のクリスティーが目覚めたと自己嫌悪に苛まれる。その目的が“殺害”ならなおさらだ。
劣等感でも何でもない歪んだ人間性。認めて欲しいとか、仲間に入りたいとか、自分の居場所や存在意義を求めて生きることとは大違いだ。
クリスティーの嘘は陰湿で欲望的で自己的すぎる。
死体の隠し場所
とくに手の込んだ処理もせず、埋める、隠す。
腰に繊維組織炎という病を抱え、死体運びの痛みに顔を歪めるがそれ以上の感情は表には出さない。この男は女の恐怖を餌に興奮し、目を見開き、その為の嘘に顔をニヤつかせ、目を細める。
イギリスの平和な街の片隅で、静かに行われていた婦女連続殺人事件。大人しく善良な市民に見せかけた男は、シンプルに殺し、死姦し、埋めて隠す・・・以上。最悪である。
最後に・・・
クリスティーの狂気を訴え続けたティムの末路にも驚愕するが、当時の偏見や捜査方法にも時代を感じざるを得ない。
これがシリアルキラーの実話であり、大きな免罪事件でもある。
隣人であってほしくない腰痛持ちのシリアルキラー。
ハイウエストのズボンにサスペンダー、その上にベルトを巻いている中年の男がいたら要注意だ。
総評
★★★☆☆